9人が本棚に入れています
本棚に追加
「いた。欹織だ」
すでに阿良治は一人の人物を見据えていた。
それは、紛れもない欹織だった。
特にこれといった目的は無さそううだが、明らかに興味をもってここへ来ている様子だ。
暁良は目を疑った。
こんな道楽丸出しのような場所へ来るはずがない。たしかに欹織だ。
少し顔つきが変わって見えるほどに、錯乱した。
引き起こる矛盾。
これまで執着したイメージが、すべてひっくり返る瞬間を味わった。
ガラス張りに手をつき、まじまじと見る。
なんと輝かしい目だ。
一度として見たことがない目だ。
隣の阿良治がなお、観察を続けている。
そうだ、今は阿良治についてだ。
なぜ、もっとも距離の近い暁良が知らず、もっとも距離の遠いと思われる阿良治が知っているか。
たとえばそこに、『恋愛感情』などといったものが働いて、彼を行動に移したとあらば、ここは音をたてずに目をつむろう。
だが、彼が恋愛など味わった人物には思えない。
そこで暁良は言葉に起こした。
「たしかに欹織だ。でも、なんでこんなことを知ったんだ?」
直球で言葉をぶつけた。これ以上無駄のない文章だ。
こちらを向く阿良治。
最初のコメントを投稿しよう!