放課後

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音楽ってのは気持ちが良いものだ。 自分の感情を吐き捨て、誰かに伝える事ができる。 そんなことを知ったのは、つい最近の事。 ここは、椎名町5丁目市立宮前中学校のさらに体育館のステージ上である。 日が沈むか沈まないかの瀬戸際くらいの時間帯に、ある集まりが行われていた。 差し込む夕日に学生たちが数人ほど照らされていた。館内は赤く染まり、学生たちもまた同じであった。 既に体育館はカラオケボックスのような状態にある。 それは、彼らの奏でる音が館内中を反響し、地面を揺るがしていたからだ。 それぞれの位置につき、それぞれの楽器に集中している。 目まぐるしく動く、指や足。 その手が止まる。 演奏が止み、しばらくの沈黙が訪れた。 そして、一人がその沈黙を破り、話しかける。 「進藤。いやー、すごいよ。ここまで呑み込みが早いとはな」 それに答える学生。 「いや、みんなのサポートあってだよ」 かなり謙遜している様子だった。 すると話しかけた方は、全体を見回し、 「今日のところは、これでお開き。また、明日この時間帯に集まることにしよう。じゃあ、解散!」 それと同時に他数人は荷物をまとめ、あいさつをして去っていった。 だが一人、残っている学生が一人いる。 先ほど、『進藤』と呼ばれた学生だ。 進藤はまだ、ギターを掻き鳴らしている。 「帰らない...。みたいだな。鍵はかけておいてくれよ。」 じゃあな、と話しかけていた方も体育館をあとにする。 どのくらい時間が流れただろうか。 夕日は月夜に変わり、月明かりに照らされる番に代わった。 一人、指を小刻みに、時に腕を大きく振り、弦を弾き続ける。 「違う...。くっそ、出来ない」 しんとした館内には、小声すらも響いた。 また、指を弦にかける。 その葛藤は、体育館で小一時間続いたのである。
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