9人が本棚に入れています
本棚に追加
音楽ってのは気持ちが良いものだ。
自分の感情を吐き捨て、誰かに伝える事ができる。
そんなことを知ったのは、つい最近の事。
ここは、椎名町5丁目市立宮前中学校のさらに体育館のステージ上である。
日が沈むか沈まないかの瀬戸際くらいの時間帯に、ある集まりが行われていた。
差し込む夕日に学生たちが数人ほど照らされていた。館内は赤く染まり、学生たちもまた同じであった。
既に体育館はカラオケボックスのような状態にある。
それは、彼らの奏でる音が館内中を反響し、地面を揺るがしていたからだ。
それぞれの位置につき、それぞれの楽器に集中している。
目まぐるしく動く、指や足。
その手が止まる。
演奏が止み、しばらくの沈黙が訪れた。
そして、一人がその沈黙を破り、話しかける。
「進藤。いやー、すごいよ。ここまで呑み込みが早いとはな」
それに答える学生。
「いや、みんなのサポートあってだよ」
かなり謙遜している様子だった。
すると話しかけた方は、全体を見回し、
「今日のところは、これでお開き。また、明日この時間帯に集まることにしよう。じゃあ、解散!」
それと同時に他数人は荷物をまとめ、あいさつをして去っていった。
だが一人、残っている学生が一人いる。
先ほど、『進藤』と呼ばれた学生だ。
進藤はまだ、ギターを掻き鳴らしている。
「帰らない...。みたいだな。鍵はかけておいてくれよ。」
じゃあな、と話しかけていた方も体育館をあとにする。
どのくらい時間が流れただろうか。
夕日は月夜に変わり、月明かりに照らされる番に代わった。
一人、指を小刻みに、時に腕を大きく振り、弦を弾き続ける。
「違う...。くっそ、出来ない」
しんとした館内には、小声すらも響いた。
また、指を弦にかける。
その葛藤は、体育館で小一時間続いたのである。
最初のコメントを投稿しよう!