三味線

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「ねえ。なんなのよ、これ!」 校舎裏で向かい合う男女。 一人の男子生徒である暁良は、きつく問いただされている最中だった。 暁良(アキラ)は言い返す。 「だって、仕方ないだろ。前の住所と間違えただけだし...」 だが、その返事に過敏に反応する女子生徒。 「仕方ない?あのね、何円請求が来たと思っているの。五万よ、五万!」 ショートヘアをかき乱し、暁良に迫った。 「でも、幸せよね。あのお母さんじゃなかったら、普通支払うわけないわよ」 「それは、感謝してるけど...」 うつむく暁良。 しばらくそれを眺めていた女子生徒の方は、見かねて暁良の腕を掴んだ。 「少し来て」 嫌な気しかしない。 そう思ったが、抵抗する余地はもはや無かった。 今、手を引き連れているのは、『荻原 欹織(オギハラ イオリ)』。 こうも馴れ馴れしいのは理由がある。 暁良の両親が離婚し、父親と共に新居へ退いた後、母は他の男性と結婚。そして、その子供が欹織にあたる。 両親はそれほど不仲だったかというと、そうではない。 ただ、父親が暁良に会う機会が極端に少なかったからだ。 大手チェーン店の上役を勤め、全国の監査に見回っている。そんな、位置に置かれる父親だ。会えるとすれば、定年退職の後であろう。 年々、店舗を増やしていく会社側からは、ものすごい地域の監査を任され、時間を惜しまず勤務に励んでいる。 暁良の新居と欹織の距離は近からず遠からずで、同じ学校に通うのも、その距離のせいである。 気づけばグラウンド脇のトイレの裏に着いていた。 そこで手をぱっと離される。 時計台を一瞬見てみれば、昼休みはまだ20分は残っていた。 はあ。昼休み中に終わればいいな...。
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