三味線

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「あのねぇ、簡単に出来るもんじゃないんだよ。ギターは。コードとか分かる?どんなものか」 少し距離を置く。 「いや、全然」 そこまできっぱり言ってくれると逆に清々しい。 だが、これ以上、航流のおバカトークに付き合う必要はない。 これで話題を断ち切っておこう。 「コードが分からないと、楽譜も読めないんだ。これじゃあ、ただの当てずっぽう大会になっちゃうんだよ。この時点でアウト。しかも、覚えても弦の...」 ガララッと開かれる戸から、教師が入ってきた。 二分遅れといったところだった。 「いやー、すまんすまん。さっき職員室でコーヒーこぼしちゃってさぁ」 教卓に用具一式を置いてから、そこらの女子にむかい言った。 この教師はいつもそうだ。 遅れては言い訳を繰り返し、言い訳をしては遅れる。一体、校内で何をしているのであろうか。 それよりも、おかげでトークは寸断され、授業が始まった。 さすがの航流も椅子を黒板へと向け、座り直していた。 まあ、こいつと付き合うのは馴れてる。問題はない。少々気が強いが、昔からフォローし合う仲だ。 とりあえず、筆箱から定規を取りだし、ギターの指の位置を作った。 頭の中で、いつもの立ち位置を想像する。 そうすれば、なんだかソロではなくグループで練習している気になった。 そんな授業中、コードを口づさむのも、しばしばであった。
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