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こうも欹織に自由を奪われてたまるか。
いまだに暁良を愛している母だが、その愛が思わぬ形で暁良を困惑させているとは思わないだろう。
とりあえず、この場を逃れるのが先決だ。
素直に言おう。
「...正直に言うよ。これは僕のギターだ。」
ふうん、と目線をギターにもっていく。
「五万円はこれにつぎ込んだわけね」
こくっとうなずく。こうなれば、なす術がないだろう。
だが、これの邪魔だけはさせたくない。
最後の足掻きに挑んだ。
「だけど、頼む!これだけは僕に自由にさせてくれ!」
両手を合わせ、思いきり願い込むポーズをとった。
だが、欹織は表情ひとつ変わらず、その場に立っていた。
「言いたいことはそれだけ?」
もうだめだ。
確信した。
欹織の妨害は厳しい。それを覚悟した。
なぜか何もない時間が流れる。
沈黙の末、欹織は口を開いた。
「いいよ」
予想外の返答に、暁良は言葉を失った。
「熱心に練習する姿、昨日少しだけ見てたの」
うつむく欹織。
「そしたらさ。楽しそうで。でも、少し悔しそうで。なんだかガラス越しでも熱意が伝わってきたの。自分は本気だって」
不意に微笑した欹織だったが、すぐにもとの表情に直る。
「もはや、こんなの遊びじゃないって思ったの。暁良にとって今、すごく必要なものだって。だから、そっとしておくって決めた」
いきなり背を向けられる。それから、バイバイと言われ、校門の方へ走って行った。
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