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青年が見たもの。
それは木の根などではなく一人の女性だった。
黒い外套を被り、継ぎ接ぎの多いローブを身に纏っており、それは一見修道女に見えた。
仰向けに倒れていたその女性の顔は目を奪われる程に美しかった。
決してきらびやかなものではないが、木々の中にいてもなお違和感のないそれこそ誰もが祈る聖女、というのが正しいかもしれない。
身に纏ったものがさらにそれを引き立たせている。
「あの・・・、大丈夫ですか?」
青年が軽く肩を叩くとその女性はうっすらと目を開け、言葉を発した。
「あぁ、私は夢でも見ているのでしょうか・・・。こんなところで神のお導きに逢えるなんて・・・・・・。」
と言って安心したのか再び意識を失ってしまった。
どうしたものか、と青年がおろおろしていると、また人の声が聞こえてきた。
"・・・アリー!"
まだ声はそんなに近くなく、叫んでるような感じなのでよく聞き取れない。
なんとなく直感で、この女性を探しているのかと思った。
青年は抱き起こして腕にその女性を抱えた。
女性の身体が思った以上に冷たく、意識がないことが危なく思えてきた青年は急いで声の主の元へと走った。
落ちている木の枝が脚に引っ掛かって走りづらかったが、すぐに近くまでくる事は出来た。
"メアリー!"
途中何度も聞こえた声はそう叫んでいた。
そして青年はその声の主を木の間に垣間見た。
重い腕の負担を抱えながら、さらに走った。
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