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「めでたし、めでたし……っていう話くらいは聞いたことあるだろ?」
揺れ続ける二つの大きな人影。少々古ぼけたアルコールランプは、自身を挟んで座っている二人の男の体に、眩いばかりの光を放ち影を作っている。
「ああ、その話は小さい頃から聞いてる。それがどうしたっていうんだ」
長いカウンター席の向かい側には筋骨隆々の大男が、手に持っているグラスを丁寧に布巾で拭いている。その顔付きや体格は、"いかにも"といった感じで何か強大な威圧感を放っている。
その大男の眼前には、大男とは実に対照的な小柄かつ、童顔をした少年がワインの入ったグラスを傾けながら、頬杖をついていた。その光景は何とも、この場において似合わぬものであったが、不思議と場の空気には溶け込んでいた。
薄暗い店内には、いくつもの木製丸テーブルと椅子が設置されている。そして店の奥側にあるカウンター席は、御贔屓さんのみ座れるシステムらしい。店の中には至るところに、そんな壁紙が貼ってある。
カウンター席の向かい側の棚には、様々な種類のワインや酒が揃えられており、そこだけが仄かな青色でライトアップされていた。
「おいおい、お前は未成年だろ。そんなに飲むんじゃねえ」
先程からグラスの中のワインを、何回も空にしては再び注ぎ直す少年の姿を見て、大男が呟く。
しかし、そんな大男の口調に不満を感じたのだろう。少年は頬を赤く染めながら大男の頭をポンポン叩き、口を開いた。
「俺に説教垂れる気かよ。仮にも俺は"お客様"だぜ?」
大男の言葉に少年はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、そんな軽口を叩いた。
しかしながら、その言葉からは童顔の少年からは想像も出来ないような、重い何かを感じる。
「お前は絶対ロクな死に方しねぇな。ただでさえ、日常茶飯事の如く天使様にチョッカイ出してる身なのによ」
そんな言葉と共に、今まで強面の表情を崩さないでいた大男が少しだけ、口元を緩める。それに連鎖したのか、少年までもが笑い出す。
その光景はやはり、とても絵に出来そうなものでは無かった。
「まあそこはご愛嬌、って事で」
「そんなんで済まされるかどうかは知らねえけどな」
「別にこうして生きてられるんだから、大丈夫だろ」
「お前の楽観的なその思考は、どうにかならないのかね」
「ならねえな」
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