NO.0「お伽話」

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そんな会話が尽きる事無く進み、話の途中で何度か客のいなくなった店内に、静かな笑い声を響かせた。 「そんじゃ、俺は帰るとしますかね」 その会話の途中で何と無しに少年がそう言い放つ。 気付けば外は宵闇に包まれて、月光のみが夜の街中を照らしていた。その淡い光は、地上に在する全てを優しく包み込む。 「嫌な一晩になりそうだ」 「……それは嫌味で言ってるのか?」 いつの間にやら、窓の傍まで移動していた少年がポツリと呟く。その声に大男は一瞬だけ、間を置いてから口を開く。少年は大男の声を聞くなり、首を軽く横に振って再び窓の外へと、視線を移した。 「黒猫が通ったもんでね、縁起が悪いなと思っただけだ」 「ったく、紛らわしい奴だ。ほら、さっさと帰りな。今日は店じまいだ」 「わーったよ。じゃあな」 少し残念そうな素振りを見せた後、少年はドアノブに手を掛ける。そして木製のドアを開けようとした直後―― 「おわっ!」 目の前にあった木製のドアに亀裂が入り、一瞬の内に儚く原型を散らしていった。辺り一帯には真夜中にそぐわぬ轟音と埃が広がっている。激しくドアを崩壊させた轟音は、数十秒経った今でも耳の中に残響を広げている。 驚きつつも少年はおっかなびっくり周囲を見渡す。すると先程まで広がっていた落ち着きのある店内は、一瞬にして丸裸同然の状態になってしまった。細かい木の破片は同じく木製のテーブルや椅子に突き刺さり、挙句の果てにはカウンター席に置いてあったワインボトルまでも破壊していた。 <目標補足――――コレヨリ迎撃ニ移行スル> 瞬時に変わり果てた目の前に広がる光景に心を奪われていたその時、破壊されたドアの向こう側から機械音にも似た硬いしわがれ声のような音が聞こえた。その音は確かに少年らと同じ言語を喋っていたのだ。 しかし現実は少年に対して非情にも冷たく当たる。真っ直ぐに突っ込んでくる謎の声の主がその全貌を現しながら、突進してきたのが何よりの証拠だ。白で塗装された見事な見栄えの機械兵は、この世界で「天使」と呼ばれている。 天使、それは人類を管轄下に置き、その生活の一部始終を監視監督するという命令を何者かによってインプットされた、ただの機械だ。ただの機械と言ってしまえばそれまでだが、それ以外に例えようが無いと少年は考えていた。
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