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「ったく、危ないったらありゃしない」
ぶつくさ文句を垂れながら、襲いくる機械兵の強烈な拳を軽やかなフットワークで躱(かわ)す少年の姿は、明らかに酔っぱらっていた。躱した後の動きに若干のふらつきが窺(うかが)える。
<迎撃、迎撃、迎撃、迎撃、迎撃、迎撃>
「迎撃、迎撃とうるせえ天使様だな。俺がどっかの商人から聞いた天使ってのは、背中から羽が生えていて非常に上品らしいじゃないか、え?」
続く勢いを殺さぬ二発目、三発目の拳も紙一重で躱し続ける少年の文句は続く。どうやら相当酔っているらしい。その証拠に少年の白々しい頬には焼け付くように映る赤色の丸印があった。
しかしこの状態が続けば、酔っている勢いで躓(つまず)いて天使の鉄の拳を食らってしまうかもしれない。そうともなれば、この小奇麗(こぎれい)な童顔もあっという間に潰されてしまうだろう
「そういや、お前にはツケがあったな――ジルガ。ちょうどいい。そのふざけた天使様をぶっ壊してもらおう。そうすりゃあてめえのツケぐらい俺様の帳面から消しといてやるよ」
「な、なに。それは本気で言ってるんだろうな、アルハルド?」
「ああ。本気だ」
オーケイと口遊(くちずさ)み、ジルガは瞬時に顔付きを変えた。その黒い眼からは、純粋な殺気が夥(おびただ)しい程に流れ出ていた。圧倒的な重圧感を全身から放つジルガは躱す事を止めて自ら天使の懐(ふところ)に潜り込んでいった。
その際にジルガの足が僅かながらに光ったのを、この半壊した店の店主であるアルハルドは見逃してはいなかった。
<目標、コチラニ対スル攻撃姿勢ヲ確認。直チニ迎撃に移る>
ジルガは天使の声を聞きながらも、その速力を殺す事なく一気に天使の懐まで突っ込んでいった。
懐に入った直後に走って付けた速度を利用しスライディングをしながらジルガは、天使のやたらとぎらつく不気味な足を掴んだ。そして有らん限りの力を片腕に集中させる。
するとどうだ。天使の明らかに重量感ある巨体が軽々と宙を舞ったのだ。何の抵抗も出来ずに天使はその巨体よりも数倍は小柄なジルガによって、地面に頭部と背面を強打される事となった。
<頭部ニダメージヲ確認。コレヨリ核脳保護ヲ優先……>
天使がしわがれた機械音を発するよりも先に、ジルガは天使に再び肉薄する。その距離僅かに二十センチ。
明らかに天使の速度よりも、ジルガの速度の方が上だった。
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