Gray Color

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  教室の扉を開け、電灯のスイッチを入れると、木目調の床と白塗りの壁が光沢を放ち、机と椅子の存在を引き出す。 自分の席に着いて鞄を椅子の上に置いて、正面に見える教卓と黒板を一瞥(いちべつ)し、 机の表面を一撫でし、伝わる冷たさを確かめ、鞄のチャックを引いて中の荷物を探り、目当ての物を取り出す。 大振りのカッターナイフのネジを緩めて刃を3分の1ほど出して、 銀の金属光を弾くそれを目の前に持ってきて、 手首を曲げたり、返したりして光の当たる角度を変えながら隅々まで見尽くす。 一度も使っていないそれは刃零れもなく、付着物もなく、外の景色よりも冷たく僕を捉える。 息を吐くと刃は一瞬曇るが、すぐに鋭い銀色の輝きを取り戻す。 僕はカッターナイフを両手で持って自分へと向け、ゆっくりと近付けていく。 目は閉じず、しっかりと近づいてくる刃を見据えて、目的の場所へと到達するのを確認する。 自分の事なのにイマイチ実感が湧いてこない。 今こうしているのは最初から決められていて、僕はそれに沿って動いているに過ぎない、と本気で思ってしまう。 無理に動機や理由を作るとしたら、意味も価値もわからず、いたずらに過ごす苦痛に耐えきれなくなった、というところだ。
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