秋 津

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   「あれはウチがお気に入りのかかさまの娘やさかい、大目に見てお褒め下されただけの事…」  静尾の言葉に綾子は目を見開くようにして身を乗り出した。  「そんなことあらしません。確かに法皇さんは静尾のおたあさんがお気に入りやけど、静尾の舞も見目もほんまに天女と見間違うばかりです。贔屓のない、正直なお褒めやのお言葉やと思いますえ」  一生懸命に訴える綾子の態度に静尾は穏やかに笑った。  「ありがとうございます。姫様がそうおっしゃって下さるなら、昨今の過分な評判も、なんや信じられる気がしてきました」  そう応えて微笑んだ。  「うれしいわぁ」  そう言いながら、綾子は静尾に抱き着いた。  「姫様…!白拍子ふぜいにそのような」  「静尾!なんでそないなこと言うの?私だけが静尾とは真の友やと思うてるの?」  静尾の顔を食い入るように見つめる目からぽろぽろと珠の涙が零れ落ちた。  「出会うた頃から少しも変わらぬ姫様のお気持ち…静尾にとっては神仏よりも尊いものでございます」  そう言いながら、静尾は懐から懐紙を取り出し、綾子の涙を拭った。  「うふふ…幼い頃と逆さまやねぇ」  静尾に涙を拭いて貰っていた綾子が笑い出した。  「京へ来たばかりの静尾は毎日毎日、泣いてばかりで、女嬬として仕えてくれるどころか、私らの方が宥めるのに大変やったわねぇ」  そう言ってくすくすと笑う。  静尾も釣られて笑顔が零れた。  「……こんなええ顔するのに、外では一切笑顔を見せへんねんやて?」  ほのぼのと静尾の笑う顔を眺めていた綾子が尋ねた。  静尾は途端に真顔になり綾子を見た。  「……はい。私は舞と謡を芸とし、生業にしておりますれば」  じぃっと食い入るように見つめる仕草が綾子を十五歳という実年齢より幼く見せるのだろう。  暫く静尾の顔を見つめ、くすりと笑いながら  「……仕方あらしませんわねぇ。静尾の心は今も惣太のもの。そやから笑顔は生業に使わへん…という事やね」  静尾は返事の変わりに軽く会釈した。  「…そやからこそ、静尾の……白拍子の静の精進された芸は天女の如くと称賛されるのやろうねぇ」  「姫様……」    
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