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やはり少女であっても貴家に生まれただけの事はある。
公家、貴族が生き残る為に必要な血縁関係や人脈情報を把握する能力はしっかりと、ほのぼのとした笑顔の下に育てられている。
「そうやわ!能成さまのお話の時に九郎ヨシツネ様のお名前を耳にしたのやわ。能成様がお小さい頃、長成卿のお屋敷でご一緒にお育ちになられたのやもの」
「…では四宮のお母上様と再従兄弟でいらっしゃる能成様と、姫様の叔父様の九郎ヨシツネ様はご兄弟…?」
「うん、そうよ。能成様は兄上様が鞍馬のお寺へ出される時の別れが、身を切られるように哀しかったと、今でもお話になるほど懐いておられたのですって。鎌倉に入られた兄上様のご様子をご存知なら教えて頂けないか、とわざわざ我が家に使いを寄越してお尋ねになられたほどですもの」
「へ…え」
静尾には正直、全く興味のない話題だが、綾子の舌は水を得た魚のように動き続けている。
「……尾」
ふと気付くと綾子が顔を覗き込んでいた。
「静尾、聞いてへんかったやろう?」
「あ……申し訳ござりませぬ」
慌てて頭を下げた。
「いいわよ。ほんま…暑過ぎるものねぇ」
静尾がぼぅっとしたのは自分の話の内容のせいではなく、ここ数年来の旱魃を招く暑さだと取ってくれたようだ。
内心ほっとしていると、
「そう言えば、仁和寺の隆暁様の事、聞いた?」
と話向きを変えてきた。
「仁和寺の…?」
「ええ。道に溢れる死人を哀れとお思いになられて、死体の額に”阿”の字を書いて仏縁を結んで回られたら、その数が四万二千三百に余ったそうよ」
「ま…あ!」
静尾は絶句する他なかった。
確かに平穏祈願の奉納舞の依頼は増えてはいるが、登子の父、能保を介して招かれる事が多く、乗り物を差し向けられる事がほとんどで、洛中を歩く事もなく、道に溢れる死体の山を目の当たりにした事がなかったのだ。
「それに戦も終わったわけではないでしょう?先年には鎌倉の伯父様は戦をせずに済むようなご提案を法皇様へお申し入れしはったんやて」
「…和睦、ですか?」
と言う静尾に目顔で頷きながら、
「そうなれば良かったのにねぇ……この京で殺し合いがあるやて…考えただけでも身体が震えるほど恐ろしいことやない?」
と同意を求めるような口調で言った。
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