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「お二人共、さぞ辛苦に堪えてこられたのでしょうねぇ」
親、兄弟を殺され、己は独り罪人として監視下の生活を強いられる……武家に生まれた者の残酷な運命を思い、静尾は溜め息混じりに呟いた。
「おたあさんは今の兄上は本当の兄上ではない。いかほどの我慢を強いられてらしたかが忍ばれてお気の毒やと言うてはるの」
「土佐の伯父上様も?」
「土佐の伯父上様は淡々と日々をお送りのご様子やけれど、やはり武家源氏に生まれたのやもの。思うところはおありかも知れへんわねぇ」
「では遅かれ早かれ、源平雌雄を決する時が来るのでしょうか」
静尾の問い掛けに頷きながら、
「それに先の墨俣の戦では、既にお身内がお亡くなりになってはるしねぇ」
と綾子が顔を曇らせた。
「まぁ!?お身内が…?」
「ええ。ほら、先ほどお話しした九郎ヨシツネ様の兄君で、卿君義円(※2)様とおっしゃる方がお頚を取られたのですって」
「まぁ…では常盤様のお子様?」
「ええ。お亡くなりになられたとの知らせに、もう気も途絶えんばかりにお泣きになられてらしたそうよ」
「…では九郎ヨシツネ様もさぞお悲しみに?」
静尾の言葉に綾子は少し呆れ笑いを見せながら、
「それがねぇ…、鎌倉には伯父様と相婿(※3)になられた常盤様のお子様で、全成(※4)様とおっしゃる方もおいでやのやけれど、全成様は顔色を蒼くなさって眼をおつむりになって耐えていらっしゃるご様子やったらしいわ……」
静尾は相槌を打ちながら、綾子の次の言葉を待った。
「けど…九郎ヨシツネ様はわんわんと赤子のように大泣きなさって、今すぐ出陣させて欲しい、何が何でも仇を討ちたい、とおっしゃられて……鎮めるのに手を焼かれるほどやったそうよ」
そう言ってくすりと片頬だけで笑った。
「ま…ぁ、赤子のように?」
「元々裏表のない真っ直ぐなご気性の方らしいけれど、真っ直ぐ過ぎて思慮の足りないところがある、と伯父様はご心配であらしゃるとか」
へぇ…と頷き顔で、静尾は”真っ直ぐ過ぎる”九郎ヨシツネという人物に、惣太の面影を彷彿としていた。
ふと目をやった庭に、二匹の秋津が飛んでいる。
見るともなしに目で追っていると、つい…っと屋根の高さまで上がり、二匹揃って何処かへ向かって飛んでいってしまった。
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