秋 津

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 初めて聞く綾子の胸の内……。  「……姫様、そのようにご心配下さり、静尾はほんまに幸せ者でございます」  静尾の言葉に綾子は頭を振りながら、  「初めて静尾に引き合わされた時の事、昨日の事のように覚えてるわ。唐渡りの白磁のような肌に、まるで玻璃のようにキラキラと光る瞳。艶やかで豊かな髪に点とグミのような唇……なんと可愛らしい、と心の底から思うたの」  出逢った頃が目の前に広がっているような面持ちで話し始めた。  「そして無垢な白珠のような女童が、どのように美しく成長するのかを楽しみにしていたわ」  そう言って綾子は静尾の手を取った。  「白珠の女童は天女にならはった…」  綾子の瞳からは今にも涙が溢れそうである。  「天女が戻るべき場所……ほんまに幸せを感じられる場所が何処なのか、私なりに考えてしまうの」  「姫様……」  「ほんまに磯へ戻りたいのならば、私が本気でおもうさん、おたあさんにお願いします。そやけど、もし惣太が妻を持っていたなら……」  そう言うと言葉を切って一瞬俯き、何かを決心したような面持ちで静尾を見つめた。  「静尾を京へ連れ出したばかりに、二人の道が別々の方向を向いてしもうてたら……と思うたら、ここで高貴な御主のお世話をするのも私の務めやないか、と思うたりするの」  そこまで一気に言うと、綾子の瞳からポロリと涙が零れた。  静尾は黙って懐紙を出し、綾子の頬に当てた。  「姫様……ほんまに勿体ないお気持ち、心底から幸せでございます」  涙を拭いながら静尾は言った。  「でも……静尾も己が身の置き場所までは、まだ決め兼ねるものがございます。ですから…いつか、己が進むべき道を決め、姫様のお助けが必要になりましたら……」  「何でも言うてね」  綾子が静尾の言葉を待ち切れないない、というように被せた。  「…はい!必ず」  静尾はじぃっと見つめ続ける綾子の目へ穏やかな微笑みを返して応えた。  二人はそのまま並んで、ただほんのりとした時間を楽しむように、庭を眺めていた。  静かだ。  けれど、それは孤独を感じる冷たい静けさではなく、心を許せる者とだけ共有できる、温かい、満ち足りた静寂だ。  そして静尾にとって心の糸を緩められる時間は、惣太と過ごした時間、惣太と見た景色に繋がってゆく。    
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