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限り無く広がる空を見上げる時、その脳裏はいつも磯の風景に繋がってゆく。
――惣太……今ごろ何してるんやろ……
まだ海に出ているだろうか
それとも船着き場で荷を下ろしているだろうか
笑っているのだろうか
短気を出して怒鳴っているのか……
静尾は惣太の真っ直ぐな眼や自分を呼ぶ声を思い出す。
きゅ……っ
と胸が痛む。
恋しい……
惣太に会いたい。
惣太の声を聞きたい。
惣太に傍にいて欲しい。
惣太の傍にいたい……!
きゅん、きゅんと胸が鳴き声を上げる。
息苦しさに思わず眼を閉じ、綾子に見つからないように胸をそっと押さえた時、
「惣太の事、思うてるやろ…?」
綾子が悪戯っぽい眼で、覗き込むように問い掛けた。
応える間もなく、
「なぁ、海とはどのようなもの?」
と、綾子が訊いた。
――海をご覧になられた事がないのや……
静尾は初めて、快活な性格を持つ綾子の“不自由”を実感し、まじまじとその顔を見つめた。
「見渡す限りに続く大池のようなもの…で、ございましょうか」
静尾は綾子が想像し易い言葉を一生懸命探し、“海”を伝えた。
「そして空と海の境目は重なっており、色は空を映す鏡のようでござりまする」
静尾の紡ぐ言葉の“海”を頭の中で形にしようと、綾子も小首を傾げるように聞いている。
「波は常に打ち寄せ、囁くように穏やかな時も、雷神が降臨したかのように轟く時もございます」
「いやぁ…なんや恐いわねぇ」
「馴れぬお方には危ないものかも知れませぬ」
「静尾は?恐くなかったの?」
――自分はいつも惣太と共に行動をしていた。
だから恐いと思った事も、感じた事すらもなかった……
と、言おうとしたが、
「……惣太がいたから恐くなかった…?」
綾子はいつも静尾の言葉を言い当てる。
そして眼を見開いて綾子を見つめる静尾の顔を見ながら、くすくすと笑うのだ。
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