第一話

2/23
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
* 「よぉ! お前がボートに乗ってるのを助けられた日本人か?」 外国語ばかり聞こえていた異国の地で、不意に聞こえた日本語に思わず反応する。 「誰だ?」 直樹は黒人の男を見る。 「ここはロシアなんだろ?」 「ロシア人全員が白人じゃあない。国籍さえあれば人種は関係ないからな」 「なるほどな」 「で、ボートに乗ってたやつか?」 「あぁ」 直樹は、刃先の欠けたナイフをいじりながら答えた。 「物騒なもん仕舞えよ。なぁ?」 「いつまでこんな部屋に閉じこめるんだ?」 「さぁな。俺の知った事じゃない」 黒人は狭い部屋を見回しながら言った。 「ところで、お前のリュックから面白いもんが見つかった」 そう言って見せてきたのは一枚のディスクだ。 「破損ファイルばかりだが、どうしたんだ?」 「中身ならコピーすればいい。とりあえず研究所に忍び込んだ際に頂戴した」 黒人は解せないといった表情を浮かべる。 「アリスの親父があそこに勤めていたんだと。ただ、家では荒れていたらしいがな」 「なるほど。彼女は父親の物を使ったのか。ちょっと、できすぎた話じゃないか?」 黒人は机の向かいにある椅子に座った。 「で、何の用なんだ?」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!