すべての始まり-プロローグ-

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 風にすすきが揺れる。  空はまるで血を吸ったかのように赤く染まり、陽はその身を隠そうと静かに沈みつつあった。  後に「天下分け目の戦い」と呼ばれる事となる合戦が終わり、もう二日が過ぎようとしている。  そんな中、無数の屍が横たわる地に、まるでどこか楽しげに聞こえる夥(おびただ)しい烏の鳴き声に交じり、微かに念仏を唱える声が聞こえた。 「南無…」  屍の前に立ち止まっては、念仏を唱える老いた僧侶。その姿は、屍を哀しむ様にも憐れむ様にも見えず、むしろどこか悟った様な表情で、淡々と弔っているように見えた。  もう幾百の屍に念仏を唱えたであろうか…。しかし、その数はまだ幾千も横たわっているのである。  僧侶は念仏を終え合掌すると顔をあげる。  バタバタバタバタ…  少し離れた所から突然、烏が数羽飛び立った。  僧侶が何かに気付き、ふとそちらに目を向けると、何か…いや誰かが、ゆらりと、幻影の如く立ち上がった。 (ん?)  それは鎧兜に身を包み頭を垂れたまま、ゆっくりと立ち上がる一人の武士の姿であった。 (何?!まだ生きてる者がおったか)  僧侶は驚きつつもそこを凝視する。  なぜなら、先程から生きた人の気配など微塵も感じていなかったからだ。  屍の中からゆらりと立ち上がる一人の武士。 「無駄なことはやめろ…」  武士は、頭をたれたままそう呟く。 「…無駄なこととな?」  僧侶が驚きつつも、そう聞き返す。 「あぁ、無駄なことだ…生き返るわけでもあるまい」 「そなたの仲間もおるじゃろう。決して無駄なことではないぞ。それに、そなたが生きておるのも、この者らの犠牲があったからじゃ。弔いの言葉をかけてやっても、感謝される事こそあれ、恨まれるようなことはないはずじゃ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加