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「ッハアッ、ハァッ、ハァッ」
私は全力で逃げていました。
暗い夜道、点滅する街頭、ひっそりとした住宅街。
――追い掛けて来るのは、裸の男の人。
彼は意味不明なことを喚き散らしながら、両手を広げて走って来ます。
「オホッ! オホォッ! ウホォォォ!」
私はその姿に、今まで感じた事のない恐怖に駆られました。
彼が何故私を追い掛けて来るのか、そんなことは二の次で、今は逃げる事で精一杯でした。
「ハァッ、ハァッ、ぅあッ!」
石に躓きそうになりながらも懸命に走りますが、中々家にたどり着くことができません。私の家は、こんなにも遠かったでしょうか。
彼は先程よりも腰を前後に振りながら、こちらに走っ……ていません。滑っています。どういう原理なのかは全く検討がつきませんが、彼は 今スケートの様に地面を滑って追い掛けて来ています。
「あぁぁあぁぁぁあ、アヘッ、アヘッ!」
何かに悶え苦しむ様に、彼は唸り声を上げています。もしかしたら、何かに苦しんでいるのかもしれません。
ですが、私にはとても彼を労る気持ちが湧いてきませんでした。何よりも恐怖、そして気持ち悪さが勝っていたからです。
「っあッ!」
そしてとうとう、私は足の限界を迎え呆気なく転んでしまいました。
「フォォォオォォ! フォォォッ!」
「ひッ!」
案の定、彼は私に追いついて来て、私の前で立ち止まりました。
正直、私は恐怖のあまり失禁しそうでした。今更になり、何故私を追い掛けて来るのか、何故私なのか、何故、と後悔にも似た疑問が押し寄せてきました。
それを知ってか知らないでか、彼は自身の股間を私に見せびらかす様にこちらに寄ってきて、私の頬に触れました。
「嫌ッ、いやぁぁ……」
私は震えながらその手から逃れようとしますが、彼は離してくれません。
私はどうなるのだろうと、心の底で諦めの様な物が芽生え始めていました。しかし――
「フォ、フォォォッ!」
彼は突然叫びだし、私の髪の毛を一本抜いたと思ったら、暗闇の彼方に走り去っていきました。
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