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「……なんでこんなトコに……! クソ! 何ボケっとしてやがんだ! さっさと逃げろよ! 状況分かってねぇのか!?」
銀髪を後ろに束ねた彼は、視線だけをこちらに向け、幼さの残る綺麗な顔を歪めて声を荒げている……んだと思う。
僕を背にし、何かを伝えようとしてくれていたのは何となく分かる。
だけど彼の言葉は、僕に届いていなかったのだ。
この時の僕に見えていたのは目の前にいる彼や、彼の対峙している『岩の化け物』じゃなく……遠い昔に捨てたはずの記憶の残骸だったから。
記憶の残骸と言っても『それ』がどんなものなのか僕にも分からない。
ただ漠然と自分の記憶であるということと、周りの状況を認識できなくなる程の恐怖を与えるモノなんだ、ってことが分かるだけで……何度思い出そうとしても心がそれを頑なに拒み続ける。
……あぁ、まただ。
こうして僕はまた、自分の世界から逃げ出すことができなくて、大嫌いな孤独を求めてしまうんだ。
――……
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