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『あの、どうして浮気していると分かったんですか?』
頭に浮かんだ疑問をそのまま彼女に投げてしまったけれど、それでもお母さんは嫌な顔ひとつ見せないでその理由を話してくれた…
「ああ、それは相手の人から何度も電話があったから…わざわざうちの電話に何度も、別れて欲しいって。
いつ掛かってくるか分からないその電話に私以外の人が出る事のないようにするのに必死だったわあの時期」
自嘲するように笑いを落とすお母さんは一頻り笑った後にはため息を落とす…
『その事、旦那さんにも話さなかったんですか?』
「ええ。 言えなかったが正しいかしら、言えば別れたいと言い出すと思っていたから余計に。
それに相手の人と話した事でヤケになってしまったのよ私…旦那の相手は私より一回りも年齢が下の女で、二言目には彼を下さいだとかなんとか言って それ聞いてたら梃子でも別れてやるものかって思ったのよ。
だから絶対、旦那にもその事は言わなかった…」
無表情でシーツを見つめるお母さんの顔はまるで本社で初めて見た杉浦さんを見ているようで、胸の奥がギュッと痛んだ…
「いい妻を演じて必死に手放さないようにしたお陰で別れ話しも出なかった…
でもだからって浮気を止めた訳でもなくて、あの人安心し切ってますます家に帰って来なくなったのよ…
そんな虚しさ埋める様に私も仕事にのめり込んで家に帰らないようにしてた、家に居てもただ虚しくてイライラするだけだから。
クタクタに帰って来たある日、奏が玄関に立ってたのよ…母さん大丈夫?って。 純粋に私の事を心配してくれてるって分かっていたのに、あの人そっくりのその顔に無性に腹が立ってその時初めて奏に手を上げてしまったの」
お母さんから話される事実が余りにも衝撃的で私は無意識に口元に手を置いていた…
まかさ杉浦さんも私と同じ状況にいたなんて今のいままで知らなくて、何度 過去の彼を思い出してもそんな素振り微塵も見せなかった…
同じだったんだ、あの時の杉浦さんも。
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