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「わぁ、保健室でご飯食べるの初めて!不謹慎だけど、なっちゃんのおかげで貴重な体験が出来ちゃった!」
ああ、皆川の笑顔が眩し過ぎて、食事が進まない。
「そう言えば、どうしてなっちゃん、今日は相澤くんに話し掛けることが出来たの?」
「えっ?」
「いつもなら、好きな人を前にすると全く話せなくなっちゃうのに」
そこでオレは、漸く理解した。そうか、きっとオレがここでは女子だから、好きな人が皆川ではなくトータになってるんだ。
つまり、親友と好きな人の立ち位置が逆転している。何で皆川が例の待ち合わせ場所に居たのか、これで分かった。今までのトータとの数年間が、皆川と過ごして来たってことに書き換えられてるんだと思う。
「な、なぁ皆……じゃなくて、は、春ちゃん!オレ達って、小学校からの友達だよな?」
「そうだよ?どうしたの?突然」
「べ、別に何でもないよ!さ、再確認!!」
ってことは、多分トータの家は皆川の家になってるんだろうな。何処まで変わるのかは分かんねーけど、確か前にトータから聞いた皆川の出身中学の学区は、全然違うところだ。オレの行ってた中学に通うのは難しいと思う。
つーか、何だよこの夢。訳が分からな過ぎて頭痛くなる。皆川とお近付きになれたのは良いけど、その分トータが遠くなるとか。
そうだよ、トータ!トータの性格が変わってないとするなら、あの態度は異常だ。あれじゃ、まるでオレのことが好き……いやいや、相手が皆川ならともかくそれは無いだろうから、きっと女子に対してああなっちゃうだけだろ、うんうん。
その後は、さり気なく中学時代の情報を得るために皆川と思い出話をする。オレはバスケ部に入ってたけど(途中で辞めたってとこも同じだった)、皆川は別の部活だったとか。所々トータとは異なった箇所もあったり。オレの性別が違うってのもあるけど。
でもトータ以外の友達は人もそいつの性別も変化が無いから、妙に男友達ばっかりになってて不思議な感じがする。
そうやって話してる内に、オレは皆川と会話することも『春ちゃん』と呼ぶことにも慣れて来て、それが嬉しくも少し悲しい……とも思ってしまったのだった。
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