翌日

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  *** 「おは……おは、よう!ナツキちゃんっ!!」  オレからする前に、とんでもなく大声でトータが挨拶して来た。ああ、何か周囲の視線を感じる。 「う、うん、おはようトータ……くん」 「おはよう相澤くん!」  皆川は平然としてるが、オレにはもうあちこちから聞こえるヒソヒソ声が気になってしょうがなかった。『高瀬』『相澤』『もしかして』『付き合ってる』と、拾った単語で上手に文章が出来上がる。いや、違うから付き合ってないから!!  男同士なら、まぁ一部騒ぎ立てるようなのも居るらしいけど何も言われないのに。男女だとどうしてこう、すぐ恋愛に結び付けるんだろうか。  周りの空気を察したのかは分かんねーけど、トータはそれ以上何も言って来なかった。  チャイムが鳴ってやって来た担任の話を聞き、それを終えてまた担任が出て行ったところで何だか見知らぬ女子が教室に入って来る。しかも、何人も。  それに伴い男子の姿も徐々に減って行って、何だろうと思っていたらいつの間にか近くに居た皆川が言う。 「なっちゃんどうしたの、ぼーっとして。もしかして、体操服忘れちゃった?」 「体操服……ああ!!」  そういや、一時間目は体育か。この高校には更衣室なんてものは無く、二クラス合同で行われるのもあって隣のクラスの教室も使用し男女別に着替えをする。  だから男子が出て行ったのか、オレも行かなきゃと一瞬だけ思って、すぐに気付いた。  オレ、今、女子じゃん。 「無いなら誰かに借りに行かないと……隣は同じ体育だから、その隣の 「あっ、あるよ!体操服、ある!!」 「そしたら、早く着替えちゃおう。授業始まっちゃうよ!」 「ううっ……」  ここでオレも、着替えろと。見た目は女、中身は男のこのオレに。己の下着姿さえも極力見ないようにしてると言うのに。何てこった。  仕方なく皆川の『なっちゃん?』って言葉を背に、教室の隅に移動して壁を見つめながら着替えを始める。念には念を、目も閉じて。  これまた別の意味でクラスメイト達の視線を集めることになろうとも、昨日の誓い──万が一皆川と結ばれ、キス以上の展開に進んだときまでは──を破るよりかはマシだ。  しかし、諦めてノーブラで来なくて本当に良かった。それこそ、変な子通り越して痴女認定されるとこだった。  着替え終えて、自分の上履きを見つめながら席に戻ると、皆川の声が聞こえる。 「なっちゃん、大丈夫?もしかしてまた具合悪いの?」 「ううん、そんなことない!春ちゃん着替え終わった?なら行こう、さぁ行こう体育館へ!」  一刻も早く、ここから去りたい。そんな気持ちから皆川の手を取り、ドアへと一直線。幸い前を見ていなくても誰にもぶつかることなく、教室の外へと出ることが出来た。  でも、そのときのオレは無事に成し遂げたと言う達成感で、全く気付いていなかった。終わればまた制服に着替えなければならないし、体育の授業は週に三回あり、今週はまだもう一回あるんだ……と言うことに。
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