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「イェーイ!ハッピーバースデーなっちゃーん!!」
高校に入学して、一週間。
何で4月生まれなのに名前が『夏希』なんだよ、って小さい頃から散々言われて来たし、まだクラス皆が馴染み切っていないこの空気の中で誕生日なんて知られたくなかった。
なので、そんな言葉と共にクラッカーを教室の中心でぶちまけた目の前の男の胸倉を掴み、とりあえず真っ先に言いたい一言をぶん投げる。
「そもそも、オレの誕生日は明日だバカトータ!!」
「…………いやぁハッハ、ちょっとしたジョークじゃないか!ホントはちゃんと分かってるって、ナツキ」
「声震えてる。尋常じゃなく汗掻いてる。やましくないならちゃんとこっち見ろ」
「すいません……本気で間違えました」
オレよりも大分デカい図体を(オレが、平均身長より少し低いってのもあるけど。悲しい)丸め、あからさまに落ち込んでいるコイツは名を相澤冬太郎と言って、オレとは小学校からの幼なじみだ。
家も近所、学力も大体同じなのでこうして一緒の高校に通っている。クラスも同じなのは偶然だけど、知り合い……しかも気の知れた奴が居るのはありがたい。調子乗るから、ぜってー口にはしないけど。
「そっかぁ、高瀬くん。明日が誕生日なんだね」
突然後ろから聞こえた声に、体が硬直する。姿は見えないけど、オレにはこれが誰だか分かってしまった。慌ててトータから手は離しても、振り向く勇気は出せない。
「そ!明日はナツキの16歳の誕生日なのさ。春ちゃんも祝ってやってくれよな!」
「うん、おめでとう高瀬くん!」
「あ、あっ……あああありがとう……!!」
誰にも物怖じしないコミュ力メーター振り切ってるトータとは違って、まるで壊れかけのロボットみたいな返事しか返せないオレ。普段からコミュ障な訳ではなくて、相手が特別なんだ。
このろくに会話したこともないクラスメイトに『誕生日おめでとう』なんて言ってくれる天使のような女の子は、皆川春香。しっかりと手入れされているだろう黒髪のロングヘアを靡かせ、眩しい笑顔を見せるこの美少女にオレはいわゆる一目惚れをしまして……このように、緊張から彼女とはいつもまともなやり取りをすることが出来ないのです。
そんなオレの対応にも嫌な顔一つせず、『明日もおめでとうって言いに来るね!』と素敵な言葉を残して自分の席に戻って行く皆川を不自然にならない程度に見つめていると、隣のお調子者が言う。
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