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「あー面白かった!」
「やっぱり、映画館の大きなスクリーンで観ると迫力があるね」
映画を観終えて、同じ施設内のフードコートで昼食を取りながら感想を言い合う。休日と言うのもあって、家族連れが多く辺りが騒がしいので、こっちも相当声を張り上げながら。
「漫画で読んだから先の展開は知ってるんだけど、それでも試合のシーンはハラハラしちゃうよなぁ!」
「うんうん、スリーポイントのとことか……入るって分かってながらもドキドキした」
良い感じに興奮してるせいか、トータの緊張もかなり薄れているみたいだ。変にどもることもなく、会話が続いている。
そうそう、これこれ。大分男同士だったときと感覚が同じになって来た。やっぱり、コイツとはずっと親友でありたい。
「そう言えば、ナツキちゃんって高校ではバスケ部入らないの?」
自分の置かれてる状況を忘れるくらい普段通りだった気持ちが、その一言で一気に引き戻された。
元の世界の……オレが中学で部活辞めた理由を知ってるトータだったら、絶対言えない台詞。それを平然と口にする目の前の彼が、別人なんだと再認識してしまった。
「な、んで……?」
そうだ、なら逆に何でコイツはオレがバスケ経験者だって知っているんだ?こっちのトータとは高校より前は接点が無いし、バスケの話題を出したのだって今日が初めてだ。
皆川から聞いた可能性は無くもないが、それだったらさっきの言葉が出て来る筈がない。直接確認した訳じゃないけど、恐らくオレがバスケ部を辞めた状況はここでもほぼ同じだろうし、それなら親友である皆川だって知ってると思うから。
オレの呟きが聞こえずとも表情で察したらしい、食事も済んでいたのでトータに別の場所に移ることを提案される。それに、小さく頷きで返した。
やって来たのは、屋上庭園と言うのか。建物の上なのに人工芝が広がり、木々が風にそよぐ不思議な空間。さっきまで居た映画館やフードコートがあったとは思えない、異質な場所だった。
春になったとは言え、まだまだ冷え込む時期だからか人気は少なく、運良く日向のベンチに座ることが出来た。
「……ごめん、俺」
唐突に、それでいて消化不良気味に。独り言のように零れたトータの言葉から、どう続ければ良いのか悩んでいる様子を感じ取った。
オレは、忘れようと心の奥の奥にしまい込んで、やっと戦友のおかげで小さくなった傷を。戦友と同じ姿をした彼に、話すことにする。
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