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トータがモテるのは重々承知していたけれども。まさかの、遠藤みたいなタイプさえ虜にしてしまっていただなんて!
いや、別に遠藤のことそんな知ってる訳じゃないけど……昨日今日見た感じ、騒がしいのとか好きじゃなさそうだったから。
またもや見透かしたように、遠藤が続ける。
「そうね、相澤くんがただ喧しいだけの人だったら……私は苦手な部類に入るでしょうね。けどそうじゃないことは、貴方が一番分かっているでしょう?」
「……そうだな」
トータは、ちゃんと空気を読めるお調子者だ。まぁ時々、ちょっと暴走し過ぎるときもあるけど。
相手が本気で嫌がっていれば、適度な距離を置くことも出来る。だから、皆に好かれている。
と言っても、目立つからこそ敵意を向けて来る奴も居るんだけどな。そう言うのは、上手くあしらってる。
「必要以上の干渉はしない。けれど、困ったときは必ず助けてくれる人。私は、相澤くんのそんなところに惹かれているわ」
「分かる……トータって、ホント良い奴なんだよな」
「今までは遠くから見つめるだけだったけど。偶然同じ学校、同じクラス、そして席が近くなったから……今度こそお近付きになろう、そう決意したときだったわ。こんなことになったのは」
『誕生日だったのよ』
その言葉と共に繋がったのは、自分の身にも起きた現象。
「16歳になる日の朝、目覚めた私は私と同じ『遠藤秋』と言う名前の男の子になっていたわ。家族に尋ねても皆寝惚けているんだと相手にしてくれない、外に出たら全く知らない場所。そこは確かに自分の家なのに、おかしな話よね。とりあえず学校に向かったわ、自宅に居てもそれはそれで気が狂いそうだったから」
オレも、そのときのことを思い出す。最初は夢だと思ってたし、幸い……かは分かんねーけど皆川の登場とトータの態度の変化により盛大に混乱して、何かもうどうでもよくなったから割と簡単に受け入れてしまった気がする。
「中学のときのように『おはよう』とだけ挨拶をくれた相澤くんに、どれだけ救われたか。でも彼の反応を見ても、やっぱり私は元から男子だと認識されている。入学し立てだし、他の人に声を掛けて元の自分の性別を確認する勇気も無かったわ。それでも教室を見渡せば、分かったことが一つだけあった」
遠藤がオレを見る。もしかしたら、初めてまともに目が合ったかもしれない。眼鏡の奥にある遠藤の眼差しは何とも表現し難い程、色んな感情を含んでいた。
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