53人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
***
放課後。中学時代はオレもトータもバスケ部に入っていたんだが、二年の二学期にクラブメイトとちょっとしたいざこざがあって二人で辞めて以来、高校も部活には入らないで好き勝手やろうぜって話になっていた。
でも今日はトータは委員会があるらしく、まだ他にそこまで親しい友人の居ないオレは寂しくぼっちで帰ることになった。良いなぁ、皆川と一緒の委員会。
そんな邪な感情を抱えながら上履きから下履きに履き替えていると、誰かが遠くからじっとこっちを見ていることに気が付いた。学内だから当たり前なんだけど、女子の制服を着た黒髪のおかっぱ頭で、顔の半分を覆ってしまう程大きな丸眼鏡をしている。知り合い……ではないと思うんだけど。
「ねぇ」
向こうも目が合ったと分かったのだろう、声を掛けて来た。オレも流石に無視出来ないなと思って、仕方なくもう一度上履きに履き直す。その間にも女子は近付いて来ていて、気付けば眼鏡の奥の瞳までよく見える位置に居た。うん、やっぱり記憶にない子だ。
「君、明日誕生日なんだって?」
「え?あ……うん」
それを知ってると言うことは、同じクラスなのかもしれない。正直まだクラスメイト全員を把握してる訳じゃないから、それが正解か分からない。そのくらい接点皆無な女子が、一体オレに何の用なのか。
「そしたら、明日会う君はどっちの君だろうね」
「はぁ?」
てっきり『おめでとう』の一つくらいは言ってくれるのかと思ったら、意味不明な言葉を返された。何だコイツ、会話する気あんのか?オレが怪訝な顔をしていると、何が面白いのかクスクスと上品に笑い始める。
「もし明日、あっちに行ってしまったら……あっちの僕に、宜しくね」
満足したのか、笑ったままオレに背を向けて女子は去って行く。あまりの訳の分からなさに、怒りを覚えながらもぼーっと突っ立っていることしか出来ない。そしてその状態から数分、漸く動き出した体は溢れる感情のやり場を見出せず、とりあえず手に持っていた下履きを床に叩き付けることしか出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!