序章

2/6
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 ――頭痛がする。  曇天の空の下、かなえは雨の気配を感じていた。家までもってくれと願えば、途端に降り出す雨。今日もまた、例外ではなかった。  アスファルトに広がるのと同じように、制服に染みができる。ぽつり。ぽつり。最初はまばらに、しかしそれはすぐに全体を呑み尽くして、かなえはすっかり水浸しになってしまう。  出し抜けに、凛とした声が耳を打った。 「傘を差し上げよう、かなえ」  声を掛けてきたのは、クラスメートの早苗さんだった。同じ制服を着ているのに大人びた雰囲気を持つこの少女を、かなえは呼び捨てには出来なかった。クラスが一緒になり、友人になっても、彼女はどこか異質で、遠い存在に思えたからだ。それはその容貌のせいか、それとも常人離れしたその感性か。それはかなえ自身にもわからなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!