別れと出会い

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‐ 6年前 ‐ 工藤哲弥は新宿の雑貨ビル屋上にいた。 上を見上げると天気が良いせいか、照りつける太陽が眩しい。 そこで解放感と心地良さに身を任せて、ポケットから取り出したタバコに火を点ける。 白い煙を吐きながら哲弥は目を閉じる。 爽やかな風を肌で感じた。 それはとても気持ちいい風である。 かつてこのビルは廃墟だった。 少年だった哲弥は、預金通帳を握り締めて屋上から下を見下ろしていたものだ。 上から見ることによって、偉くなった気分になれる。 そしていつか下から這い上がりたい。 ここに来る理由はいつもそんな単純な理由だった。 あれから何年かの時が経ってから、今日は久し振りに訪れていた。
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