百年の鎖

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ウィリアムは風に乗り届いた音を掻き消すように、手を払う仕草を見せる。そして片耳を押さえると深く息を吐いた。 「……立場、ねぇ。アンタら人間の、決めた立場なんざ俺は知ったっこちゃねぇよ。単に今、時間が必要だから俺は此処に居る。そんだけだ」 「時間?」 ウィリアムは過去に大罪を犯し、幽閉されたと聞く。人間にとって許されない重大な罪を犯した、と。時間というのはその罪を償う事を指しているのか。それとも―― 少女が今居る場所からは、ウィリアムの表情を窺い知る事は出来ない。だが、その声は悲しみが滲んでるように感じた。 「ウィリアム、貴方は――」 「悪い。お喋りが過ぎたようだ。……じゃあな」 「あ、ちょっ!!」 少女が制止する間もなく、ウィリアムは“能力”を使いその場から消え失せた。 塔を吹き抜ける冷たい風。その風でなびく髪を押さえると、少女はウィリアムの消えた梁を見つめる。 「相変わらず、振り回されているようですね」 カツン、と床を歩く音と共に穏やかな声色が少女の耳に届く。振り返るとそこには見慣れた人物が微笑んで立っていた。 「リッ、リズリー様!」 そう声を上げ、少女は慌てて頭を下げる。
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