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周囲に漂うのは鉄の匂い。秋に色付く紅葉のように、地面に広がる赤、赤、赤。
それはつい、今しがた此処で殺戮が行われた事を意味していた。
無惨に転がる死体。息をしている者は数える程しかおらず、村は壊滅状態と言える。
頬に付着した血を、袖口で乱暴に拭うとその場に立つ唯一の男は口を開いた。
「後はアンタだけだ。その命渡してもらおうか」
感情の読めない冷たい声色。男の前には両手足を折られながらも、意識を保つ老人が座らせられていた。
「……御主に、殺されるとは思わなんだ。覇王の……修羅の、道を歩むつもりか……」
老人の問いに男は何も答えない。答えの代わりに老人の胸ぐらを掴むと、焼け焦げた地面に叩きつけた。
「ぐっ……!?」
「ジジィの癖に心配なんざしてんじゃねぇよ。今は己の事だけ考えてれば良い。――消えゆく命の事だけな」
老人の身体にじんわり食い込んでいく刃。幾人もの血を吸っていったのだろう。その刀身は黒く濁っていた。
痛みに顔を歪める老人に絶望の色はない。あるのは未来への憂いだけ。目の前にいる男をジッと見据え老人は口を開いた。
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