馬鹿、闘う

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□ はじまりは30年前にいたる。 美術部創立当時、藤島高校は男子校だった。 一点の紅もない、モノクロでむさくるしい日々に色味を投じようと一念発起した(ここは私の憶測)一年生の生徒が、美術部を創立した。 当初の部員は五人と、実に小ぢんまりとしていたと聞く。 ほのぼのとカンバスに向かう日々。 異性交遊はないものの、満ち足りた青春。 顧問に隠れてストーブで食パンを焼いて喰うこともあった。 自分たちの貧相で薄汚れた裸体を晒しあい、ふざけてデッサンすることもあった。 五人は、地味に、黙々と、でも愉快に、校舎の片隅に自分たちの楽園を築き上げた。 そして創立から一年、彼らは二年生になり、新入部員を集めようと奮起する。 五人だけでも充分楽しかったが、せっかく立ち上げた美術部を自分たちの代で廃れさせるわけにはいかない。 ビラまき、呼びかけ、個展など、ありとあらゆる手を尽くした。 しかし、むんむんと熱気の漂う男子校で、健全な高校生である新入生たちは持て余したソレを発散させるため、多くが体育会系の部に流れた。 彼らはしょんぼりして、うなだれた。 まあいいよ、と誰かが言った。 今年はまた五人で楽しくやればいい、部員集めはまた来年があるさ、と。 他の四人も賛同し、景気づけに油絵でも描こうかと陽気に準備をし始めた。
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