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霞みかかった視界にぼんやり映る薄汚れた壁。それは次第に鮮明な像を結びはじめ、それが板張りの天井だとようやく知った。
はっきりと覚醒しきらないまま回りを見渡し、そこに見慣れた机や見慣れた戸棚があることで自分のいる場所を認識できた。
「んん、ここは……家?」
体に馴染んだベッドの上。誰の手によって運ばれたのか。横たわった姿勢で意識を取り戻したテオはぽつりと呟く。
ベッドの脇で丸くなっていたエメラルドグリーンの猫はその声に耳を揺らし首をあげた。
「あぁ、お前の家だ。ようやく目覚めたな。丸一日寝ていた。さすがに私も心配したが、大丈夫そうだ」
ぴょんと跳ねベッドに飛び乗り、テオの顔を覗き込むと安堵の表情を浮かべる。
そんなシャロンの額を優しく撫でてやると、目を細め気持ち良さそうに柔和な表情を見せる。
少年は上半身を起こすと喉や腹に手を当て、異常がないか確認し始めると、全て知っているだろう猫妖精へと問い掛ける。
「どうやって家に?」
「お前が気を失ったあと、自警団が捜索に来た。おかげで無事帰って来られた。魔法による炎が目印となったようだな」
テオはシャロンを両手で抱き上げ。
「そうだったんだね。シャロン、守ってくれてありがとう」
その言葉にシャロンは一度微笑み、しかし直ぐに浮かない顔へ。
「いいや、私が悪かった。済まない。あの花の香りを楽しんでいたのだが……。どうやらあの花粉のせいで眠気に襲われてしまったようなのだ」
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