ミス・フローレンス

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   しばらく互いに無言だった。昨夜の出来事を反芻しているのか、それともこの先のことに不安を覚えているのか。考え込むテオへシャロンは掛けるべき言葉を探していた。  エレメントの調和の『乱れ』。純血の種族ならば悩むことのない稀有な問題。なぜなら通常、エレメントの調和に見合った魔力しか生み出すことができない。魔力精製が調和を『乱す』ことなど有り得ないからだ。ところが混血種族は双方が乖離している。また調和そのものも不安定。故に肉体の弱体化を招きやすく、病弱にして短命である。  テオにはシャロンがずっと寄り添って生きてきた。そのため、本人がそのことを実感することはこれまでほとんどなかったのだ。  シャロンが思案に耽っていると突然、ガバッと顔を上げたテオと目が合った。 「ねぇ! ミス・フローレンスは?」 「心配するな。ほら、そこにある」  シャロンが腕で指す机の上には花がパンパンに詰められた小さな麻袋。  テオは布団を剥ぎ取り、飛び起きる。布団に座っていたシャロンは勢いよく宙を舞う。  テオは袋をしっかりと掴むとドアを開け放ち階下へと駆け降りていく。 「テオ! 無理してはいかん!」  体を捻り華麗に着地を決めるも、既にテオの姿はなく 「大丈夫! 早くおじいさんにあげるんだ!」 そんな元気な返事が、階下から返ってきた。    
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