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病床に臥す白髪の老人。意識こそはっきりとしているものの、苦悶の表情を浮かべ、ただ天井の一点を見つめる。そばで嬉々としてキッチンに向かう息子同然の少年 ――テオへその姿を晒すまいと堪えている。
心癒されるほどの満面の笑みでテオは器を運んできた。ベッドの脇のテーブルに丁寧にそれを置くとおじいさんの上体を支え起こし、器をおじいさんへと手渡す。
「おじいさん、さぁ飲んで」
静々と器に口を付け、ゆっくりと飲む。その姿をテオは不安そうに見守る。
「どう? なんか凄く苦そうだよ」
あの純白の淡く光を帯びた花からは想像できない黒く澄んだ液体。おじいさんの指示の通り、花びらをすり潰し煮詰めた後、繊維質を取り除いた。色も去ることながら、臭いもいささか強烈で、まるで腐った卵のような臭いを放っていた。
「テオ、薬とは苦いものよ。これくらいマグダラの樹皮に比べたら大したことないわ」
マグダラの樹皮はテオも飲まされたことがある。高熱を下げるには効果覿面の植物由来の薬。こちらは無臭だがとにかく苦い。
「もう一杯もらえるかな」
テオはこくりと頷くと差し出された器をテオは受け取る。心なしかおじいさんの表情は柔らかくなった。それを見てテオは再び笑顔になった。
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