ミス・フローレンス

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   テオが住むアボア村に隣接する木漏れ日の森。この森には、様々な効能を持つ植物が繁茂する。村人達の管理によって野放図に生える雑草や木々の無駄な枝葉は駆逐され、適度に日の射す森は薬草が育つには最適な環境である。テオは医師であるおじいさんの手伝いで薬草採取のためによくこの森を訪れる。  薬草の目利きはおじいさんにしこたま仕込まれている。勝手知ったる森の中の移動も慣れたもの。だが、今日ばかりはそうとは言ってられなかった。 「違う……」 「白い八重の花びらで、群生してて……、葉の形は……」  おじいさんから聞いたミス・フローレンスの特徴を繰り返し呟き、それに合致する花を探し求める。未だに見たこともない花である。決して間違えることのないように、草花の見つめるテオの表情は何時になく厳しい。  そして集中するあまり、いつしか普段は立ち入らない森の深部へと入り込んでしまっていた。そこは村人の手の届かない原生の森であった。 「テオ、これ以上進んでは危険ではないか? ゴブリンのテリトリーに侵入してしまうぞ」 「シャロンがいるから大丈夫だよ」 「しかしだな……」  シャロンの言葉を遮り、テオは続ける。 「なんとしてもミス・フローレンスを見つけて帰るんだ。おじいさんの病気を治すにはそれしかないって、おじいさんも言ってた。だから……。だからなんとしても探さなきゃいけないんだ」      
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