ミス・フローレンス

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  「じいさんほどの名医でも、治せぬ病はあるのだな……」  この猫の姿を借りた妖精はテオが物心ついた時には既にそばにいた。時に優しく声を掛け、時に辛辣な言葉を浴びせ、いつもテオの傍らにいて、見守ってくれている。 「だから……、大丈夫」  「大丈夫」と半ば呟くように口にしたその言葉は誰に向けたものか。  見慣れた森の姿は一変。人の侵入を拒む原始の森へと入り込む。地をうねる根、幹から枝を伝い絡まる蔦、複雑に絡み合う枝葉は森から光を奪い去った。  シャロンの警告に従えば、ここは既にゴブリンのテリトリー。険しい山岳地帯や森の奥深くなど、およそ人間が近寄らない地域に潜み、時折人間の生活圏に侵入して悪さを働く。アボア村も例外ではない。その度に村の屈強な男達で組織する自警団が出動し、追い払うのだ。  アボア村のあるガリンデズ島はゴブリン達の襲撃も自力で対処可能な小規模なものである。しかし、大陸ではゴブリン達は横の連携を強め組織的な進攻を行うという。そのため領土を争う戦争に発展することも珍しくはない。 「日が暮れてしまったな。ほどほどで帰らねば、村の者達が心配するぞ。最近はゴブリン共による誘拐事件も多いというからな」    
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