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シャロンの言葉にふと足を止める。一心不乱に進んできた森は闇に染まり、足元さえ覚束ないほどである。
闇を意識した途端、テオの心に一片の不安が芽生え、森のざわめきはその不安を瞬く間に増幅させる。静まり返る森の奥より響く獣の咆哮にびくついては体を強張らせる。
「シャロン……」
「どうした?」
「迷ったみたい。帰り道がわからないよ」
「だろうな……」
頭上の猫は長い溜息をひとつ。そして小さな腕である方向を指す。
「もう少し進んだ先に開けた場所が見える。そこで夜が明けるのを待つのはどうか?」
夜目が効くのはさすがは猫。一晩そこで過ごして、また探したら明日こそミス・フローレンスを見つけることが出来るかもしれない。見つけられなければおじいさんに合わせる顔がない。村人には心配をかけてしまうがテオにとってシャロンの提案は好都合だった。
「わかったよ、ありがとう」
さすがは猫、などとは口が裂けても言えない。猫の姿で自由気ままに暮らしているのに、本人は猫であることを何故だか認めようとしない。余計なことを口走ると頭に爪が食い込む。それは勘弁願いたい。
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