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テオは夢中になって花を摘み取った。心の中ではおじいさんの喜ぶ笑顔が見えている。歓喜に震える気持ちがここをゴブリンのテリトリーだということを忘れさせた。
「オ? こんなところに人間ダ」
喉が詰まったような呻きに近い発音。
「おいおい。冗談ダロ? 金髪と尖った耳はエルフの特徴じゃなイカ」
「臭いは人間ダ?」
「まぁ、待テ、おマえら。どっちでもイイじゃなイカ。人間デモ、エルフでも。ガキはみんなオレラ様に捧げるダ」
背後から聞こえてきた会話に思わず手が止まる。緩んだ気持ちは直ぐに張り詰め、背筋は硬直し冷や汗が頬を伝う。
ゆっくりと顔を上げ、シャロンの姿を花畑に捜すが見当たらない。
気配と会話から推測した三体のゴブリンはテオの背後に陣取り、なにやら言い争っているようでもある。
「しかし、人間かエルフかは重要ダ。人間なら狩る、エルフなら戦うダ」
「どっちも変わらないダ?」
「んにゃ、重要ダ。これは心構えの問題ダ?」
「どっちでもイイだ。モタモタしてると逃げられるダ?」
――今だっ!
テオは勢いよく立ち上がると、前方へと駆け出す。
「シャロン! ゴブリンだ!」
あらんかぎりの声で。
――シャロン、助けてっ!
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