僕らの街に桜並木は無い

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――それは、彼女の一言から始まった。 「ねえ、ユウ。」 「…んだよ」 「桜、見に行こうよ」 「はあっ?そんなんどこにでもあるだろうが。お前の家の近所、大きいヤツあるだろ?」 俺――本名は、朝倉悠と言う――は唐突に口を開いた向かい合わせに座っている人物を怪訝に思い、そう返す。 まるで病人のように日焼けをしていない真っ白な顔が、じっと俺を見つめていた。 彼女の名は守谷和泉。 俺の幼なじみだ。 彼女の部屋には、白以外の彩りが殆ど無い。 唯一あるのは、彼女の栗色の髪と双眸だけ。 「そうじゃなくて…」 「じゃあ、どうなんだよ」 言い辛い、というより、俺の反応を楽しんでいるようで、和泉は俺を見てにまにまと笑んでいる。 脳天気な彼女に無性に苛ついて、眉を顰めた。 「どうしよっかなーっ」 「いい加減にしないと、もう帰るぞ?」 溜め息と共に立ち上がりながら言うと、彼女は慌てて俺の腕を掴んだ。 .
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