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囁かな足音を立てながら 生徒会関係者以外 立ち入り禁止のフロアを 後にした宏太が向かうのは 教室でも自室でもない。 「伊野ちゃーん…」 逃げ込んだのは風紀室だった。 風紀室の前で ノックもせずに声をかけた 宏太だったが すぐに返答がある。 「薮?入っていいよ。」 いつもの声にほっと安堵し 宏太は扉を開いた。 部屋に近付くことさえも 許さないと言われている 風紀室だが、 いざ中に入ってみると コーヒーのいい匂いが漂う 暖かな場所であった。 宏太にとっては、だが。 最恐だと噂される 伊野尾慧委員長も 宏太には厳しくない視線を 寄越す。 「また追い出されたのかよ?」 「自分で出てきたのぉ。」 資料を捲る手を止めずに 問いかける伊野尾に 宏太は少し苦い笑みを 浮かべた。 空いているスペースに 持ち込んだ書類を広げて 黙々と作業を始める。 伊野尾がコーヒーカップを 机に置く音、 書類が捲られるときの 微かな摩擦音。 偶に委員の生徒が 伊野尾に声をかけて 何度か飛び交う仕事の話し。 あぁ、ここは静だなぁ、 とぼんやり霧がかった頭の中で 考えから宏太は机に伏せた。 __
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