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「…誰と?」
祐介は小さな確信をもとに慎重に聞いた。ケンジは俺だと判ってて俺に言ってくる奴じゃない。
「そこまでは判らない。でもあいつの一昨日来てたコートから男物の香水の匂いがしたんだ。」
「それだけ?」
「そのコートのポケットから婚約指輪出てきたんだぜ?」
祐介は一昨日のまゆみを思い出した。目の前でわざとらしく指輪をとったまゆみ。
『 ケンジは今、いないわ。 』
『 ねえ、私の事 好き? 』
ぷるぷると首をふる。あの日、まゆみから貰った香水を祐介はつけていた。今も祐介にはその香りがまとわりついている。
ケンジが言っている浮気相手は自分自身だという事にすぐ気が付いた。
「…何も言わずに別れるのか?」
たったこれだけの言葉を、祐介は必死の思いで絞り出した。
たったこれだけだったが、それでも頭に浮かんだまゆみを消すには十分だった。
「…問い詰めるさ。」
祐介が次の言葉を探しているとき――
「あっ、まゆみ見つけた。また電話する。ごめんな。」
――そして電話はきれた。
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