0人が本棚に入れています
本棚に追加
それはごく一般的な昼下がりだった。
サラリーマン達が昼食を食べる場所をいそいそと確保する。どのお店も 満席、満席、満席――
近くには専門学校があるらしく、学生たちがコンビニに群がる。
――ああ、やりにくい。
だから都会はイヤなんだと、ケンジは口には出さず悪態をついた。
不機嫌そうな顔だちは元々だが、人の多さに苛立ち 更に怪訝な顔になっていく。
三時間前からカフェのガラスよりの4人テーブルに腰を下ろしていたケンジは 店員と何度も目が合っていた。
「もう良いから、泣くなって。」
目の前でボロボロと涙を流すまゆみに、先程まで覚えていた怒りがどこへ行ってしまったのか、ガラスの向こうに探していた。
「…ごめんね?」
「ああ、もう良いから。」
まゆみは泣いてる姿が一番かわいかった。
笑ってる時もベッドの上でも、すねている時も、それなりにかわいいけれど。
こいつを手放したくない。
そばに置いておきたい。
そうケンジが心底思うのは泣いてる姿だった。
「…多分もうすぐ、祐介が来るかも。」
「また、電話したのね。」
ふふっと笑い、黒く長い艶やかな髪を耳にかけるまゆみに、ケンジはドキッとした。 付き合って7年――この女に何度惚れれば気がすむだろう。
最初のコメントを投稿しよう!