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まゆみは透き通るような栗色の瞳をしていて、ナチュラルなメイクはその瞳を更に輝かせていた。
筋の通った鼻。ピンクのリップを塗った口。その口から出る声は落ち着いていて、女性の媚びを感じない。
まゆみのチャームポイントは、ずばりホクロである。
正面から見て唇の左下に1つ。右のこめかみに1つ。
そこそこ可愛い女だと、ケンジは思っていた。ただまゆみくらいの可愛さの女であればケンジならいくらでもひっかけることが出来た。
彼がそれでもまゆみを選ぶ理由――それは彼自身も謎であった。
「私、お腹空いてきた。ねえケンジは空かない?朝から食べてないでしょう?」
まゆみは立てかけてあったメニューを取ると、パラパラとめくった。
「そういえばそうだな。」
「あっ、新メニュー出てる。夏野菜カツカレーだって。」
「じゃあ、俺それ。」
「流石ケンジは決断が早い。私は…ボロネーゼにしようかな。店員さん、呼んでいい?」
すぐ横にあったボタンをまゆみは押そうと手をかけたが、ケンジはその手を掴んだ。
「いや、せっかく祐介が来るんだ。三人で食べよう。」
ピンポーンと遠くでなるのが二人にはハッキリ聞こえた。うっかり押してしまったらしい。
「それもそうね。ゆっくり、待ってるわ。」
「はい、お伺いいたします。」
「お冷やお代わり下さい。」
手を握り見つめあうカップルのきまずさの中、勇気を出して声をかけた店員 朝倉は、これで7回目になるお冷やのおかわりに心の中で悪態をついた。
チッ、さっきからお冷やで長居しやがって。こっちはピーク時で大変なんだぞ。それなのにいちゃいちゃしやがって。ああ俺だって彼女がほしいさ――
「以上でよろしいですか?」
「はい。」
――次呼ばれても俺は絶対このテーブルには来ないどこう。そうだ、上田を使おう。アイツに行かせればいい。
残念ながらこの後3回ケンジ達は呼び出しボタンを鳴らすが、どれも朝倉が行くはめになることを彼は知らない。
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