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まゆみとケンジが仲直りしてちょうど15分過ぎた頃、まだまだ騒がしい店内に一人の男性が入ってきた。
ダメージジーンズ、チェックのワイシャツ、紺色のカーディガンにさっぱりとした黒髪。朝倉はパッと見で、近くの専門学生だろうと思った。
「お一人様でしょうか?」
朝倉の営業スマイルに男は好感を覚えたが、店内の騒がしさから自身を受け付けてないのだと察知した。
「いや、連れがいるはずなんだ。」
「よろしければ店内を探していただいても…。」
「ありがとう。」
男はニコッと朝倉に笑顔を向けた。チラリと見えた八重歯に朝倉は嫉妬さえも感じなかった。
ハッキリとした目鼻立ち、それなりに焼けた肌にあの八重歯は卑怯だろ…。爽やかイケメンってやつか。
「お!祐介。早かったな。」
「毎回毎回、心配させやがって」
「ごめんって。今日はおごるからさ?」
朝倉が負けを認めた爽やかイケメンこと祐介はすぐにケンジ達を見つけた。
祐介はその場の雰囲気から仲直りしたのだと読み取り、心の中で安堵のため息をついた。
「まゆみとケンジは?なんにも食べてないの?」
「祐介が来るまで待ってたんだよ。ケンジがそう提案したの。」
祐介はケンジの隣に座りながら謝った。
「ああそうなんだ。わざわざごめんな。」
「いや祐介が謝んなって。わざわざ足を運ばせたのは俺達だしな。」
「じゃあお言葉に甘えて…俺はナポリタン。」
まゆみから渡されたメニューをパラパラと目を通して、祐介はあまり迷わず告げた。
「ナポリタン好きだな。」
「前も三人で入った喫茶店でナポリタン頼んでたわね。」
まゆみとケンジは顔を合わせて笑った。祐介は少しムッとした。
「困ったらナポリタン。美味しいじゃんか。」
ケンジが呼び出しボタンを鳴らす。祐介は何を飲もうかドリンクメニューをみたが、店員が来るまでに決まらなかった。
「はい、お伺いいたします。」
「夏野菜カツカレーと、ナポリタン。まゆみ、お前はなんて言ってたっけ?」
「ボロネーゼよ。祐介は何か飲む?」
「うーん…お冷や1つで。」
「以上でよろしいですか?」
祐介はドリンクメニューから初めて店員に目を向けた。そこでやっと入口で案内してくれた店員だと気付く。
「はい。」
この男が加わった事でまた長居されるな、と朝倉は祐介が気に入った営業スマイルの裏で諦め半分に思った。
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