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「......いいわ。互いに譲れない意志のもと、手っ取り早く決着をつけましょうか」
ザワッと、空気が振動する。
雌雄を決する時、迫り来る戦闘への矜持(きょうじ)。
勃発の合図。
火花を散らす、火種の催促。
「ふふん」
瞳の色を紅から蒼に変えた。
意図の不明なその変化に、二人の眉がハの字に動く。
誰もが唾を呑み込む中、渦中の慎でさえ一歩も動けないでいた。
淀んだ空気の中に取り込まれたような不快感。三角の中心はこんなにも──息苦しい。
「棗流剛術──【轟雷】」
先手は、楓。
超人的な身体能力を駆使した体術を披露していた。
右足で床を踏み砕き、疾風の如く早さで沙希へと肉薄する。
腰を捻り、右肘を彼女の腹部に突き刺す──瞬間。
「狙いが単調ね」
沙希は予測していたかのように、楓の攻撃に対し、既に行動を起こしていた。
襲い来る肘鉄を左に跳ぶことで回避。紙一重という絶妙な位置でそれは抜け、彼女の技は空を弾けさせ、不発に終わる。
そして、沙希のカウンターが煌めく。
身体を半回転捻り、振り抜いた左足蹴りを炸裂させた。
軸足を固定したまま、所謂(いわゆる)──回し蹴りという技。
一閃。
水平に放たれた一撃は楓の脇腹を鋭く抉る──筈だった。
刹那。
「如月流──【霞崩し】」
彼女が、消えた。
沙希の一撃が空気を裂き、僅かに体のバランスを崩す。
楓はその隙を見逃さない。
その場に残像を残し、瞬く間に彼女は沙希の背後に姿を現す。
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