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そのまま、掌底(しょうてい)。
護身術の範疇でのみ使われる威力の低い技を叩き込んでいた。
「......っ!」
だが、沙希はそのさらに上にいく。
放った一撃が沙希の背中に接触する寸前────彼女の身体が一瞬にして消えていたのだ。
パンッ!と、掌底が空気を叩く。
しかし、そこに沙希は存在しない。
しまった、と悔やむ暇もなく、
「如月流──【霞崩し】」
今度こそ、脇腹に激痛が走る。
メキッ、と嫌な音がした。
見れば、沙希の加えた一撃は掌底などではなく、本気の本気──拳骨で放たれていた。
「フェイントが見え見えなのよ。それと、殺す気で向かってくる敵に対して殺傷力の低い掌底を選択したのは覚悟が足りない証拠ね」
それが聞き取れる最後の言葉だった。
次の瞬間には、
「────!?」
胃液が込み上げる不快な感覚と共に楓の体は吹き飛んでいた。
抗う術もなく、楓は滞空。
壁に直撃し、ようやく勢いが止まる。凄まじい衝撃と共に。
「うっ、く......」
右側の肋骨が数本だけ折れたような激痛が身体中を蹂躙する。
口端から垂れる赤い血から察するにあまり宜しくない負傷だろう。
即座に、楓は立ち上がり──唱える。
「高速......っ、回復」
瞬間、蒼白い光が再び彼女を覆い、傷ついた体組織を修復。
左手で血を拭い、少々疲弊気味になりつつも完全な姿の楓がいた。
瞳だけは、鋭く沙希を睨んで。
「御崎 楓──能力は治癒。超人的ともいえる身体能力の正体は、脳のリミッターを外すことにより通常の人間を超えた力を発揮出来ることにある」
突如として、沙希が饒舌に語り出した。
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