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広範囲魔法による、複数同時攻撃。
楓にアリアス。敵意の無い斗真と鈴までもが標的となっていた。
「くっ......」
「わわっ」
アリアスがそれを横に跳ぶことで回避し、楓が平手で水弾を弾き飛ばす。
「......」
「何故に僕まで!?」
鈴に至っては、無言のまま前方に重量の壁を展開して弾を垂直に落とす。
情けなくも、斗真は慌てて次元に穴を空けて逃げ込んでいた。
最後、今まで口すら開いていなかった漆。
「【lightning・spel】」
唱え、一息。
「【spear・rain】(槍の雨)」
瞬間、彼女の周囲に無数の雷槍が展開。
その内一つが水弾を打ち消し、残りの魔法は全て沙希に向けて穿たれていた。
慎が傍にいるのも構わずに、だ。
彼女自身、表情こそ変わっていないが、内心では激怒していることであろう。
大事な弟が巻き込まれてしまうことすら頭に入っていない。
完全に冷静さを欠いた攻撃といえよう。
「......必死ね」
呆れるくらい、と彼女は呟く。
怒りで我を忘れるあまり、最愛の弟である彼までも巻き込んだ。
「──でも」
丁度良い。“アレ”を試す機会が得られたのだから。
「慎、聞いて」
「......」
慎は一瞥すらしない。
いや、“する事すら出来ない”
もう、とっくに理解の範疇を超えて思考を停止させていたから。
ならば、最早言葉は要らない。
行動で示すのみ。
「私だけなら回避も容易いけど、慎が一緒だとそれも出来ない。必ずどちらかが傷を負ってしまう」
だから、
「慎の有する希少魔法は知ってる。だからこそ、私はそれを逆に利用する」
情報源──一族の後継者であった紗耶香(さやか)にとって、他の一族の能力の詳細を把握しているのは当然のこと。
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