6563人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふふっ、なんだ。そんなことを気にしてたのね」
彼女が笑って、何故か自分の腕で自分自身を抱き締める。
愛(いつく)しむように、強く。
ポツリと、沙希は呟いていた。
信じられない言葉と共に。
「──私の中にいるわ。一つになったのよ、私と慎はね」
『────!?』
全員が同時に震撼する。
一瞬、彼女が何を言ったのか理解出来なかった。
それが一体どういう意味なのか、ただの妄言なのか。
「雷槍の雨が直撃する瞬間、私は慎に魔力性質を【overwrite】(上書き)させた」
「【overwrite】(上書き)、ですって?」
と、漆。
「そう。間接的じゃなくて直接的に、ね」
「っ、それは......!」
ここで、楓が表情を強ばらせていた。まるで、彼女が言う次の言葉を予測したかのように。
沙希が、指で自らの唇をなぞるように撫でて、
「ファーストキス......慎にあげちゃったわ。うふふ、気持ちよかった──病みつきになるくらい」
嬉しそうに頬を染める彼女は、恍惚とした表情を浮かべていた。
だが、それが火種となったらしい。
その言葉を言い終えた刹那、動く二人の少女。
「慎(シン)くんを......っ、返せぇぇぇえええ!」
魔力強化した脚力で、数メートルの間合いを一瞬で詰めていた。
楓と漆。
「──!」
初撃は、楓。
風をも切り裂く健脚を横凪に放つ。狙いは、彼女の頭部。
人間の身体能力を超えたその蹴りは、魔法の防御すら突き破る。
最初のコメントを投稿しよう!