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「やれやれ──まだ理解してないみたいね」
けれど、沙希はそれを回避しようとすらせず、腕を組んで嘆息するだけ。
そして、楓は構うことなく一閃を放つ。
「──」
本来、打撃ならば響く音は鈍い筈。骨の軋む音と、肉を抉る感触のみ。
「っ!?」
実際は、違った。
眼前で見た光景──それは、とても有り得ない結果。
蹴り放った足が、彼女の頭部を吹き飛ばし、それと同時に飛び散る大量の水。
ぐらりと、頭部を失った沙希の体が後ろに倒れていく。
その筈だが、
『さっき、懇切丁寧に御霊が説明してたわよね?私には物理攻撃の一切は意味が無いって』
瞬時に、後ろ足が体を支え、飛び散った水が欠損箇所に収束していく。
頭に響く音波のような声が聞こえ、瞬(またた)く間に、
「さっきの瞬間に、慎が御蛟の力を発動して、身体が水に変化した。でも、慎は体を維持できなくてそのまま私が取り込ん──」
顔が修復され、沙希が説明の補足
をしている最中、
────轟、と。
大気をも穿つ雷の一閃が煌めいた。
言葉を遮って投擲された複数の攻撃は、彼女の腹部、脚部、腕部、頭部を塵と化す。
今度は原形すら残さない。
『全く......人の話は最後まで聞きなさいよ、あー、痺れる』
バチッ、と伝統体である水は表面に雷を帯びる。
それでも、
「学習能力が欠落してるの?アナタ達、いい加減に“力の差”を理解しなさい」
水面から這い上がる銀髪碧眼の悪魔。
その瞳の色は、さらに蒼く染まっていた。もはや、『鮮やか』でなく『濁った』色彩。
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