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違(たが)うことなどあろう筈もない、雰囲気から口調まで彼自身に間違いなかった。
「やっぱり、あの女の言葉は妄言だったのね!慎くんが吸収されたなんてあるわけないもの!」
満面の笑顔で漆は駆ける。
疑うことなく、弟の温もりを肌で感じるために、ひたすら真っ直ぐ。
「──ははっ」
慎が、今までにないくらいに表情を怪しく歪めなければ、だが。
漆の手が、慎に触れる瞬間。
「【water・spel】」
彼の手刀が、袈裟懸けに振り抜かれた。
鋭利な武器を彷彿とさせる、水で形成された三日月の刃。
それが、至近距離で放たれる。
「────え」
突然の事態に、回避はおろか最低限の防御も不可能。
彼女の身体に、刃が食い込むその刹那────。
「漆ちゃん!」
楓が跳び出していた。
高速で刃と彼女の間に滑り込み、庇うように背中で刃を受ける。
ズブリと、肉を抉る嫌な感触。
それは激痛を彼女の精神に刻み、刃は肌を滑るように通過していく。
水の刃が斜めに通り過ぎ、身体から離れた瞬間、
「あぁ!?」
ビチャ、と。
床や壁に彼女の鮮血が飛び散ったのを、全員が息を呑んで目撃していた。
ついに、血が流れた。
痴情のもつれでなく、正真正銘の──殺し合い、が。
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